半導体のDRAMとNANDは、どちらもデータを保存するための記憶装置(メモリ)であるが、それぞれ使い道や特徴が異なる。DRAMは、パソコンやスマートフォンの「一時的な記憶」に使われるメモリである。電源が入っている間だけデータを保持し、電源を切るとデータは消える「揮発性メモリ」で、データを読み書きする処理スピードが速く、処理能力を高めるために重要な部品だ。
一方のNANDは、USBメモリやスマホ、SSD(ソリッドステートドライブ:記憶装置)などに使われる「長期保存用」のメモリである。電源を切ってもデータが残る「不揮発性メモリ」で、写真や動画、アプリ等のデータ保存に使われる。書き込みには少し時間がかかるが、大量のデータを保存できるのが特徴だ。
それぞれの特性から、DRAMは速さを重視する「作業机」、NANDは保存を重視する「引き出し」のような役割だと言われている。サムスン電子、SKハイニックスの韓国勢に米マイクロン・テクノロジー[MU]を加えた3社がメモリの大手メーカーで、日本企業としては旧・東芝メモリのキオクシアホールディングス(285A)が高いシェアを持っている。
生成AI(人工知能)やクラウドの普及により、DRAMやNANDといったメモリに対する需要が再び高まっている。とりわけ、DRAMの中でもHBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)に対する需要が急速に拡大している。AIサーバーの開発では、コストの高い最先端の画像処理半導体(GPU)よりも、メモリの記憶容量や読み書き速度を上げると全体の性能が上がる。つまり、AIの学習や推論などの性能はメモリに依存している。
HBMは、メモリチップを垂直方向に積層し、高い帯域幅(広いデータ通路)を実現することで従来のDRAMに比べてデータの転送速度が速く、また低消費電力という特徴を併せ持つ次世代のメモリ技術だ。もともとは高性能なグラフィックを処理する目的で開発されたものであるが、AIやHPC(高性能計算)、データセンター向けのアクセラレーターとしての需要が拡大している。
エヌビディア[NVDA]の最先端のGPU(画像処理半導体)には、大量のHBMが搭載されている。実際、オープンAIのChatGPTのような大規模なAIモデルにおいては、HBMを組み込んだGPUが不可欠となっている。
WSTS(世界半導体市場統計)が6月3日に発表した「2025年春季半導体市場予測」の製品分野別成長率によると、2024年のメモリ市場の成長率は79.3%と他の製品に比べて大幅な伸びを示したことが改めて確認された。2025年から2026年にかけて成長率は鈍化するものの、アナログやマイクロを上回る伸び率が想定されている。
【図表1】半導体市場の製品別成長率の推移 出所:WSTSのデータより筆者作成
【図表2】2022年、2023年、2024年(予測)のDRAM売上高とHBMの割合 出所 :トレンドフォースのデータより筆者作成 この伸びをけん引するのがHBMだ。市場調査会社TrendForceによれば、2023年にいったん落ち込んだメモリ市場の売上高は、2024年にかけて再び800億ドル台を回復したとみられている。全体の1割にも満たなかったHBMの売上は2倍以上に拡大し、2024年には全体の2割をHBMの売上高が占める見通しだ。今後、HBMの成長が半導体業界全体の成長をけん引するキードライバーになると考えられている。
半導体メモリ大手の一角、マイクロン・テクノロジーが6月25日に発表した2025年8月期第3四半期(2025年3-5月)の決算は、売上高が前年同期比37%増の93億100万ドル、純利益は18億8500万ドルと5.7倍に拡大した。データセンター売上高は前年同期比で2倍を超え、四半期としての記録を更新。特にAIサーバーで使用されるHBMが記録的な売上を達成した。HBMは他のDRAMより収益性が5倍~10倍高い。
【図表3】マイクロンの売上高と最終損益 出所:決算資料より筆者作成 マイクロン・テクノロジーのビジネスユニット別売上高では、データセンター向けHBMや大容量DRAMなどを含むコンピュート&ネットワーキングは前四半期に比べて11%増加(前年同期比では97%増)、また、データセンター向けSSD(ソリッド・ステート・ドライブ:集積回路を用いた補助記憶装置)の増加を受け、ストレージは前四半期と比べて45%増加した(前年同期比では2%減少)。
【図表4】マイクロン・テクノロジーのビジネスユニット別売上高(単位:100万ドル) 出所:決算資料より筆者作成
マイクロン・テクノロジーは、HBMの量産拡大と製品開発ロードマップは順調に進んでいるとし、2025年後半にはHBMのシェアが現在のDRAM全体のシェアと同程度の水準に達すると予想している。これは以前の計画より早期の達成となる。マイクロンは現在、GPU(画像処理半導体)とASIC(特定用途向け集積回路)プラットフォームの両方を対象として、4つの顧客向けにHBMを大量出荷しているが、顧客からは通常のスケジュールよりも前倒しで製品を確保しようとする動きもあるという。
マイクロン・テクノロジーのサンジェイ・メロートラCEO(最高経営責任者)は、AIによって高性能メモリとストレージに対する前例のない需要があるとして、「2025年度に記録的な売上高、堅調な利益率、およびフリーキャッシュフローを達成する軌道に乗っている。同時に、AI駆動型メモリ需要の拡大に対応するため、技術リーダーシップと製造の卓越性を強化するための規律ある投資を継続する」と述べた。
第4四半期についてもメモリに対する旺盛な需要は続くとして、売上高について過去最高となる前四半期比15%増の107億ドル(ガイダンスの中間値)との見通しを示した。データセンターにおけるAIの継続的な成長という好条件は揃っており、2025年8月期は大幅な増収を達成できると確信しているということだ。
マイクロン・テクノロジーは6月初旬からHBMの次世代製品である「HBM4」について、一部の顧客向けにサンプル出荷を開始したと発表した。量産開始は2026年の見込みだ。LLM(大規模言語モデル)のシステムにおいて推論性能を加速させるという。マイクロン・テクノロジーの現世代AI向け製品である「HBM3E」に比べ、性能は60%以上向上、電力効率は20%改善したとしている。
マイクロン・テクノロジーは、2026年操業開始に向けて、先進的なHBMパッケージング工場の建設をシンガポールで着工した。総投資額は70億ドルとのことだ。現在、マイクロン・テクノロジーはSKハイニックスやサムスン電子といった韓国勢の背中を追いかけるポジションにいるが、どこまで食い込むことが出来るのか。拡大するAI向け市場をいかに獲得していくのか、半導体メモリメーカーの競争はさらに激しくなりそうだ。
マイクロン・テクノロジーズ [MU] 出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA] 出所:トレードステーション
アマゾン・ドットコム[AMZN] 出所:トレードステーション
アルファベット[GOOGL] 出所:トレードステーション
マイクロソフト[MSFT] 出所:トレードステーション
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【半導体】米マイクロン・テクノロジーは韓国勢にどこまで食い込めるか?業界の成長をけん引するHBM(高帯域幅メモリ) | 石原順の米国株トレンド5銘柄 | マネクリ マネックス証券の投資情報とお金に役立つメディア
AIの学習や推論の性能は「メモリ」が左右している
DRAMは「一時的な記憶」メモリ、NANDは「長期保存用」メモリ
半導体のDRAMとNANDは、どちらもデータを保存するための記憶装置(メモリ)であるが、それぞれ使い道や特徴が異なる。DRAMは、パソコンやスマートフォンの「一時的な記憶」に使われるメモリである。電源が入っている間だけデータを保持し、電源を切るとデータは消える「揮発性メモリ」で、データを読み書きする処理スピードが速く、処理能力を高めるために重要な部品だ。
一方のNANDは、USBメモリやスマホ、SSD(ソリッドステートドライブ:記憶装置)などに使われる「長期保存用」のメモリである。電源を切ってもデータが残る「不揮発性メモリ」で、写真や動画、アプリ等のデータ保存に使われる。書き込みには少し時間がかかるが、大量のデータを保存できるのが特徴だ。
それぞれの特性から、DRAMは速さを重視する「作業机」、NANDは保存を重視する「引き出し」のような役割だと言われている。サムスン電子、SKハイニックスの韓国勢に米マイクロン・テクノロジー[MU]を加えた3社がメモリの大手メーカーで、日本企業としては旧・東芝メモリのキオクシアホールディングス(285A)が高いシェアを持っている。
生成AI(人工知能)やクラウドの普及により、DRAMやNANDといったメモリに対する需要が再び高まっている。とりわけ、DRAMの中でもHBM(High Bandwidth Memory:高帯域幅メモリ)に対する需要が急速に拡大している。AIサーバーの開発では、コストの高い最先端の画像処理半導体(GPU)よりも、メモリの記憶容量や読み書き速度を上げると全体の性能が上がる。つまり、AIの学習や推論などの性能はメモリに依存している。
エヌビディア[NVDA]の最先端GPUにも大量に搭載されているHBM
HBMは、メモリチップを垂直方向に積層し、高い帯域幅(広いデータ通路)を実現することで従来のDRAMに比べてデータの転送速度が速く、また低消費電力という特徴を併せ持つ次世代のメモリ技術だ。もともとは高性能なグラフィックを処理する目的で開発されたものであるが、AIやHPC(高性能計算)、データセンター向けのアクセラレーターとしての需要が拡大している。
エヌビディア[NVDA]の最先端のGPU(画像処理半導体)には、大量のHBMが搭載されている。実際、オープンAIのChatGPTのような大規模なAIモデルにおいては、HBMを組み込んだGPUが不可欠となっている。
WSTS(世界半導体市場統計)が6月3日に発表した「2025年春季半導体市場予測」の製品分野別成長率によると、2024年のメモリ市場の成長率は79.3%と他の製品に比べて大幅な伸びを示したことが改めて確認された。2025年から2026年にかけて成長率は鈍化するものの、アナログやマイクロを上回る伸び率が想定されている。
【図表1】半導体市場の製品別成長率の推移
出所:WSTSのデータより筆者作成
【図表2】2022年、2023年、2024年(予測)のDRAM売上高とHBMの割合
出所 :トレンドフォースのデータより筆者作成
この伸びをけん引するのがHBMだ。市場調査会社TrendForceによれば、2023年にいったん落ち込んだメモリ市場の売上高は、2024年にかけて再び800億ドル台を回復したとみられている。全体の1割にも満たなかったHBMの売上は2倍以上に拡大し、2024年には全体の2割をHBMの売上高が占める見通しだ。今後、HBMの成長が半導体業界全体の成長をけん引するキードライバーになると考えられている。
HBMの需要が急拡大、収益性はこれまでのDRAMの10倍にも?
半導体メモリ大手の一角、マイクロン・テクノロジーが6月25日に発表した2025年8月期第3四半期(2025年3-5月)の決算は、売上高が前年同期比37%増の93億100万ドル、純利益は18億8500万ドルと5.7倍に拡大した。データセンター売上高は前年同期比で2倍を超え、四半期としての記録を更新。特にAIサーバーで使用されるHBMが記録的な売上を達成した。HBMは他のDRAMより収益性が5倍~10倍高い。
【図表3】マイクロンの売上高と最終損益
出所:決算資料より筆者作成
マイクロン・テクノロジーのビジネスユニット別売上高では、データセンター向けHBMや大容量DRAMなどを含むコンピュート&ネットワーキングは前四半期に比べて11%増加(前年同期比では97%増)、また、データセンター向けSSD(ソリッド・ステート・ドライブ:集積回路を用いた補助記憶装置)の増加を受け、ストレージは前四半期と比べて45%増加した(前年同期比では2%減少)。
【図表4】マイクロン・テクノロジーのビジネスユニット別売上高(単位:100万ドル)
出所:決算資料より筆者作成
マイクロン・テクノロジー[MU]は次世代製品のサンプル出荷を開始、半導体メモリメーカーの競争はさらに激化
マイクロン・テクノロジーは、HBMの量産拡大と製品開発ロードマップは順調に進んでいるとし、2025年後半にはHBMのシェアが現在のDRAM全体のシェアと同程度の水準に達すると予想している。これは以前の計画より早期の達成となる。マイクロンは現在、GPU(画像処理半導体)とASIC(特定用途向け集積回路)プラットフォームの両方を対象として、4つの顧客向けにHBMを大量出荷しているが、顧客からは通常のスケジュールよりも前倒しで製品を確保しようとする動きもあるという。
マイクロン・テクノロジーのサンジェイ・メロートラCEO(最高経営責任者)は、AIによって高性能メモリとストレージに対する前例のない需要があるとして、「2025年度に記録的な売上高、堅調な利益率、およびフリーキャッシュフローを達成する軌道に乗っている。同時に、AI駆動型メモリ需要の拡大に対応するため、技術リーダーシップと製造の卓越性を強化するための規律ある投資を継続する」と述べた。
第4四半期についてもメモリに対する旺盛な需要は続くとして、売上高について過去最高となる前四半期比15%増の107億ドル(ガイダンスの中間値)との見通しを示した。データセンターにおけるAIの継続的な成長という好条件は揃っており、2025年8月期は大幅な増収を達成できると確信しているということだ。
マイクロン・テクノロジーは6月初旬からHBMの次世代製品である「HBM4」について、一部の顧客向けにサンプル出荷を開始したと発表した。量産開始は2026年の見込みだ。LLM(大規模言語モデル)のシステムにおいて推論性能を加速させるという。マイクロン・テクノロジーの現世代AI向け製品である「HBM3E」に比べ、性能は60%以上向上、電力効率は20%改善したとしている。
マイクロン・テクノロジーは、2026年操業開始に向けて、先進的なHBMパッケージング工場の建設をシンガポールで着工した。総投資額は70億ドルとのことだ。現在、マイクロン・テクノロジーはSKハイニックスやサムスン電子といった韓国勢の背中を追いかけるポジションにいるが、どこまで食い込むことが出来るのか。拡大するAI向け市場をいかに獲得していくのか、半導体メモリメーカーの競争はさらに激しくなりそうだ。
石原順の注目5銘柄
マイクロン・テクノロジーズ [MU]
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA]
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アマゾン・ドットコム[AMZN]
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アルファベット[GOOGL]
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マイクロソフト[MSFT]
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